私の世界

生まれてから死ぬまで、人の一生はけっこう長い。
長くて、その一生の中には実に様々なことが詰まっている。

一人の人間をずっと見続けている人はいない。いや、いる。自分だ。
自分だけが、自分の一生を物語にすることができる。

他人に言っていないこと、他人が見ていないこと、頭の中、心の中。これらも自分だけが知っている。

他人が、ある個人について知っている、と思う事柄は、その人の全体の、ほんの数パーセントに過ぎない。

太郎くんの世界は、外側から見るよりもっと猥雑で多面的で、ドロドロしている。
花子さんの世界は、外側から見るよりもっと複雑で混沌としていて、コロコロ変わる。

だから、紋切り型はダサい。誰に対しても「あいつはああいう奴だ」と割り切らない方が良い、と思う。

「ガープの世界」では、ガープと、ガープを取り巻く世界が描かれる。
観察者が、ガープという個人の世界を描き切った物語だ。

ガープを取り巻く世界は理不尽だ。そしてガープ自身も、理不尽だ。理不尽が人生を覆う。

説明できることはほんの少し。世界は理不尽で、意味がなく、わけがわからない。

でも、個人の人生をずっと観察していれば、腑に落ちることもある。
それぞれ個人の世界は、傍から見ると異質で狂っているが、徹頭徹尾、観察者になれば、理解できることもある。