子供の頃、家の前に小さな公園があった。

その公園にはブランコと砂場しかなく、必然的に、砂場で遊ぶ時間も多くなった。

砂は柔らかく、粒が小さく、色も淡い。握りしめてもさらさらとこぼれ落ちる。一見やさしそうな雰囲気をたたえている。

でも砂は、実際には恐ろしい存在だ。人に向かって投げると、目つぶしにもなるし、髪の毛とか服の中に入って、ものすごく気持ち悪いことになる。武器としての殺傷能力は、相当なものだ。

ある日、その砂場で、宝探しのような遊びをしていた。砂の中をまさぐっていたら、「ぐにゃり」とした感触があった。つかみ上げると、糞だった。「ひぃぎゃあああ」と悲鳴をあげた。

その後、弟を呼んで、宝探しをさせた。1分後、弟も同じように「ひぃぎゃあああ」と悲鳴をあげた。少しだけ溜飲が下がった。

自分にとって砂は常に恐ろしい存在で、だから、この安部公房が書いた砂にまつわるホラー小説も、すっと腹落ちしたように思う。

砂にはぜんぜん表情がない。中に何を抱えているのか分からない。掴めない。そして生命がない。

水木しげるの「砂かけババア」は表情があり直接攻撃してくるから理解のしようがある。でも「砂の女」は(実際には「砂の女」の舞台の村の闇は)、理解できない、掴めない怖さをもっている。

いちばん怖いのは、分からなくて、生命感がないのに圧倒的なもの。砂のような存在が、この世でいちばん怖い。